代表理事ご挨拶

片山 等
(国士舘大学法学部教授・弁護士)

 一般社団法人 日本映像倫理審査機構(平成21年7月1日設立、以下日映審とする)は、平成22年11月よりコンテンツ・ソフト協同組合(平成17年7月11日設立、以下CSAとする)と協議の上で新たに一般社団法人 映像倫理機構(映像倫とする)を設立し、両団体に従来から加盟している会員社(140社弱の予定)の制作する映像ソフト作品の審査及びそれに付帯する調査、研究、啓蒙、普及等の活動を推進することとなりました。会社外からの審査の申請も受けますが、既にご承知の如く、一般社団法人格取得前のいわば旧日映審は平成20年6月25日に発足し、「映像ソフト関連事業の健全な発展と映像文化の普及向上を促進するため、表現の自由を守り、社会に許容される倫理基準に沿ったもの作りを推進、併せて映像ソフトに関する調査、研究及び普及啓蒙を行う」(定款第3条)ことを目的に設立されております。そのために「関連事業者との提携」を通して「社会に貢献」すること、及び「映像ソフト等制作事業の振興と文化の普及向上に寄与すること」を目指して参りました。
 これまで日映審とCSAは別個の審査団体として、一方は一般社団法人として、他方は共同組合として活動して参りましたが、設置形態の別を除き、実際の日常的な業務の側面に注視しますと、類似する審査基準に基づく映像ソフト作品の審査は、ともに一般社団法人 審査センターと業務委託契約締結の上で審査業務を実施して参りました。言うまでもなく審査業務の委託とはいえ、その業務の指針は審査基準により定められており、審査基準の適用上の問題への対処等の責任は最終的には審査団体が負うべきものでありますが、審査の実態は両団体に共通する部分が多く、あえて別個のまま存在する理由も見出せず、むしろ逆に合併、統合して規模のメリットを生かしつつ同時により一層責任の所在を明確にする方が良策ではないかと考えた次第であります。その意味で、共通の審査団体に所属する加盟会社数を増やし、より規模を拡大しそのメリットを追求することができ、同時に社会的責任を果たしていける様に斯界に働きかけることも希望いたしました。  要は、健全な映像ソフトの制作に傾注できる様にすために、社会的規範や社会的な倫理に適合する審査を行い、併せて販売面でも違法ソフトの取締りや未成年者への販売規制や展示の棲み分け等を具体化し、より厳格に実施するためにも両団体の統合、合併が望しいとの結論に至った次第であります。
 CSAと合併後の映像倫の理事会に於いても、旧日映審以来の方針を堅持しつつ次のように考えております。表現は表現なるが故に表現作品は基本的には自由であってしかるべきというのが、憲法の定める民主社会における表現の自由の原則であります。しかしながら複数人から成る社会に於いては、その共同社会の存立のためには自ずから社会的な規範が要請されて参りますし、一方で「見たい自由」、「見る自由」が主張されるならば、他方では「見たくない自由」、「見ない自由」も主張されることになりますし、人格の発展途上にある未成年者に対しては「見せたくない自由」も主張されるところであります。申し上げるまでもなく、人間や社会、共同体にとって「性」は大切な事柄でありますし、その存続にとって「性行為」は欠かすことができません。しかし、事は「性行為の自由」ではなく「性表現の自由」が問題とされております。単なる個人としてではなく社会的な次元で考えれば、制作する側の表現の自由の重要性に意を払いその声に耳を傾けつつも、その作品について「見たくない自由」や「見せたくない自由」も尊重しなければなりません。仮に自己の営利の追求のみに走り、「見たい自由」に名をかりて自己の「つくる自由」、「売る自由」だけを声高に主張するのだとしたら、その作品の承認を社会から得ることは難しくなります。社会的意義や社会的な存在理由を抜きにしての事業の発展は、およそ望み得ないでありましょう。
 時代の規範やモラルに挑戦する表現の自由の意義や重要性を思いつつも、他方の社会的な規範や社会の中でのモラルにも意を払い、健全な映像ソフトの開発、発展を図るという難しい試みを軌道にのせるためには、自主規制団体たる映像倫の自主的な審査体制をより充実したものにせねばなりません。単なる業界の圧力団体でしかないものが、映像作品の「審査」をしていると言っても、社会は認めてくれないのではないでしょうか。それ故に業界の会員社、メーカーからは一定の距離を置き、業界と他の社会とを結ぶためにも、業界外からの有識者を迎え、独立性、公平性、公正性、透明性、説得性等に配慮する審査団体が求められる由縁であります。表現の領域への公権力の介入を事前に防ぐことこそが、肝要です。そのためにも不幸な経験(所謂、ビデ倫事件)を有する本機構の前史から学ばなければならず、客観性、独立性、公平性等の追求こそ本機構に課せられた使命であることを改めて確認するものであります。なお、映像倫は出版、放送、大学に籍を置いてきた3名の外部理事と映像作品制作社からの3名の理事で理事会を構成します。  近時、未成年者による性表現映像のネット上での扱いや児童ポルノ規制、青少年保護条例上の性表現規制等の動向を見るつけましても、ますます無自覚や鈍感であってはならず、むしろ時代毎の社会的要請の応じつつ、その中で如何にして映像表現の自由を追求していくかが真剣に問われています。表現の自由や著作権保護と、他方の健全な青少年の育成、社会規範や倫理、道徳規範の遵守とを調整することを目指す、第三者的機関として自他ともに承認されることを標榜する、自主規制団体としての映像倫の今後の発展のためにも、関係の皆様方よりの御協力、御指導、御教示を歓迎いたします。

平成22年8月 旧映像倫理機構設立時